車輪文化研究会レポート2
信貴山縁起絵巻は、平安時代後期の絵巻物(国宝)です。信貴山は奈良と大阪の間の生駒山のふもとにあります。ここで聖徳太子が祈りをささげ、日本で最初に毘沙門天が現れた山寺なので信じるべき貴い山です。この絵巻物は、3つの物語からなっています。主人公は、命蓮上人(みょうれんしょうにん)という長野県出身の僧侶です。
1の巻、飛び倉の巻では、命蓮の法力により、鉢が飛びます。そして、鉢にひっぱられて、米蔵が飛びます。年貢として米をおさめて苦しい生活をしている農民のもとへ、米をたらふく食べて優雅にくらしている悪者の長者の家の倉がまるごと飛んでいくのです。鉢は、アーサー王の円卓の騎士の前に飛んできた聖杯のように、問題解決をし、食べ物をもたらす聖杯のようです。聖杯は、インディージョーンズの映画など、キリスト教世界において、象徴的な意味をもちます。 タロットカードの52枚の小アルカナカードも、地(金貨)、水(聖杯)、火(剣)、風(杖)の4要素のカードが13枚ずつあって、トランプと起源を同じくするという説もあります。
4要素は、西洋占星術で12星座を4グループにわけるのと同じです。聖杯=水=生命をあらわします。剣= 火=勝負運のつよいグループです。コイン=地=財運の強いグループです。風=知性をあらわします。
さらに、平安時代から始まり、江戸時代に最盛期をむかえた香道でも、52は重大な意味を持ちます。源氏香という香りの型があって、これは源氏物語の全54巻から桐壺の巻と夢浮橋の巻をのぞいた52巻をもとにしています。52という数字、そして聖杯には、この数字にも世界の秘密が隠されているのかもしれません。
2の巻、縁起加持の巻では、平安時代中期の天皇、醍醐天皇が病気で苦しんでいるとき、命蓮が祈ると、剣の護法という少年が空を飛んできて天皇の夢にあらわれ、病を治します。この少年は、体中に剣をぶらさげているため、奇抜な印象をうけますが、実は当時、竜神の遣いとして同じような姿の像がよく作られていました。しかしこの絵巻ではあえて竜神を描かないところがすばらしい、そして天駆ける少年の足元に車輪が書いてあるところが興味深いといわれています。
さて、この車輪、仏教思想でよく用いられる輪廻カルマの輪の象徴、輪の中でおどるインドのヒンドゥー教のシヴァ神像、さらにタロットカードの運命の輪。人類にとって車輪とは何なのでしょう。
むかし、高校で日本史の授業をさせてもらっていた頃、1学期の期末テストが終わったあとで、娯楽の時間として、信貴山縁起絵巻1の巻のビデオを見ながら聖杯の話をしたら、生徒さんは、全員眠ってしまいました。でも、2の巻で、車輪の文化史として話したら、1人くらい、話をきいてくれたかもしれません。